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CROSS TALK

NPO 日本ユニバーサル・サウンドデザイン協会 <JUSDA> 
名誉総裁 瑶子女王殿下  ×  理事長 中石 真一路

※以下、説明ならびに質問は「瑶子女王殿下」「中石理事長」、お2人の会話では「瑶子さま」「中石さん」と表記いたします。


インタビューに先立ち『快護生活フェス2022 inかごしま』において、中石理事長による特別講演会が開催され、これを受けて、瑶子女王殿下が壇上で「おことば」を述べられました。その際、突然、館内放送でライトをつけたままの駐車車両がくり返し呼び出され、「おことば」が中断されるというハプニングが起きました。そこで瑶子女王殿下が「該当の方がいらっしゃいましたら、どうぞ遠慮なさらずに行かれてください」「私の話よりお車の方が大事なので、どうぞ」と呼びかけられたところ、会場内の張りつめていた空気が一気になごみ、温かな雰囲気の中「おことば」が再開されました。

中石理事長 特別講演会でのおことばの際に、ユーモアを交えて会場の空気を一変されたのはお見事でした。突然の出来事で頭が真っ白になられませんでしたか?
瑶子女王殿下 真っ白にはなりません。そもそも、何を話すかまったく決めていなかったので(笑)。いつもその場にいらっしゃる方を拝見して話します。
中石理事長 ずっとメモを取られていましたが、あれは話す内容をまとめていらっしゃったのでは?
瑶子女王殿下 あれは中石さんが話されていた内容のポイントを書き留めていただけです。何しろ私は〝聴こえているふりをする天才〟ですから(笑)。中石さんの話を聞きながら、私が話す文章を考えていたように見えましたか?
中石理事長 そうでしたか、あらためて感服いたしました(笑)。ユーモアあふれる絶妙なご対応で、会場の皆さんの心が一気に開かれ、一瞬にして瑶子さまのファンが増えたように感じました。
瑶子女王殿下 皆さんの笑い声や笑顔に触れられて良かったです。マスクだと表情や反応が読み取りにくいけれど、ちょっとした言葉で私の人柄を少しでも理解してもらえたのなら、何よりです。
中石理事長 今日、会場にいらっしゃった皆さんは、思いがけない瑶子さまのご対応に、とても近しい思いを抱いたように感じました。そして「いつでも私を鹿児島に呼んでください」というお言葉に感激された人も、多かったのではないでしょうか。

瑶子女王殿下は、2021年12月にNPO 日本ユニバーサル・サウンドデザイン協会の名誉総裁に就任されました。名誉総裁就任のきっかけや理由については、数年にわたって中石理事長とともに私的な現地視察をくり返す中、公的な立場に就くことで「聴こえ」に対する世の中の関心が高まればとの思いから、就任を決意されたと述べられています。


瑶子女王殿下 プライベートな視察はメディア報道されないので、聴覚や難聴に関する情報はなかなか世の中に広く伝わりません。しかし、comuoonと出会って喜んでいるお子さんや大人の方々、また聴覚への関心が高まった方は実際にたくさんいらっしゃいます。それを公式に発信する場が、このNPOです。
私的な視察の際に、訪問先の学校や企業が写真や文章で私の訪問を紹介して下さればよいのですが、それも簡単なことではありません。視察を通じて、聴覚への熱い思いを持つ方々と出会い、comuoonで聴こえる環境を取り戻した方々の声を聞くことは、感音性難聴がある私にとって共感できる貴重な機会です。しかし、自分の聴こえにくさに気づいていない方々が、まだ数多くいらっしゃるのも現実です。
中石理事長 私たちの努力がまだまだ足りないということでもありますが、「聴こえにくさ」を、なかなか自分事としてとらえられていない現状を思い知らされます。
瑶子女王殿下 先天的難聴や加齢に伴う高齢者難聴だけではなく、近年は若い世代にも潜在的な難聴が広がっています。若者にとっても、聴こえにくさは決して他人事ではありません。聴覚に関心を持つことで、誰にでも起き得るリスクを回避して欲しい。私には感音性難聴で実感した経験があるからこそ、若者には「聴こえることの有り難さ」に気づいて欲しい、という思いがあります。
中石理事長 今後はメディアを通じて、瑶子さまの真意が的確に伝わる機会が増えそうですね。
瑶子女王殿下 私の公式な活動をメディアが取り上げることで、聴覚や難聴への関心が高まるのは大変望ましいことです。それがゴシップ的な興味なのか、純粋な関心なのかは人それぞれですが、まずは聴覚という五感の一つをもっと身近に認識して、ヒアリングフレイルへの意識やcomuoonなど聴覚支援システムへの認知度が高まっていけば、と願っています。
中石理事長 瑶子さまと初めてお会いした際、「私も現場に伺ってよろしいですか」とおっしゃったのが、とても印象的でした。
瑶子女王殿下 私は〝現場〟の人間です。ただレクチャーを受け「そうですか」と答えるだけではなく、施設や企業など現場に足を運び、実際にどう使われているのか、どんな課題があるのかなどを、自分で見聞きして実感したい。自らの行動を通じて、現場の人たちに寄り添いたいと思っています。
私は物心つく頃からずっと障害者福祉に携わって来ました。施設へ出かけて話を聞き、レクレーションに参加する機会も数多くありました。しかし、公務のメディア取材は施設にとっては非日常で、利用者の方にとっての負担や事前準備など対応の大変さから辞退されることがほとんどなので、公的なものでも取り上げられることはほとんどありません。
中石理事長 瑶子さまの「私は現場の人間です」というお言葉に、1人の国民として感動しています。
瑶子女王殿下 父(三笠宮寬仁親王殿下)の姿をずっと見てきたので、常に「現場を知りたい」という氣持ちが軸になっています。うわべの言葉だけではなく、そこで働き、暮らしている、お一人お一人の姿に触れ、心で感じたいのです。
中石理事長 瑶子さまはよく「私はメジャーではない」と、冗談をおっしゃいますね。
瑶子女王殿下 あれは、私の活動の多くがメディア報道されないので、国民の皆さんには知られていない存在、という意味です。「何もしていない皇族」という印象もあるようですが、実際には公私ともにちゃんと働いております(笑)。かねてから思っていた聴覚への認知を広げたいという目的はもちろん、私もきちんと働いているとお知らせする意味も含めて(笑)、NPOの公的な立場に就かせていただきました。
中石理事長 つまり、聴覚や難聴への認知や理解を加速するための名誉総裁就任、ということでしょうか。
瑶子女王殿下 はい、私はもともと肩書には興味がなく、持ち上げられるのも好きではありません。これまでのように私的な活動を続けていくことでもよかったのですが、世の中の認識や理解を深める上でこの立場が役に立つのなら、私はあえてそこに立ち、公私にとらわれず活動していこうと思いました。

数年前より瑶子女王殿下は、中石理事長とともに私的なお立場で、福岡・佐賀・熊本・鹿児島・岡山・埼玉・東京都内の7都県・23カ所に赴かれ、comuoonの導入状況などを視察されました。


中石理事長 これまでの視察を通じて、印象に残ったご訪問はございますか。

瑶子女王殿下 最近では、埼玉県入間市の市役所で伺った話が印象に残っています。私はずっと、世の中の組織はどこも厳格な縦社会の価値観が判断基準になっていて、特に行政組織は前例に無いことに対するハードルが非常に高いと思っていました。でも実際には、違っていました。
入間市役所のある係長がcomuoonを知り、聴覚支援システムの意義を理解した上で導入を上司に提案しました。しかし、価格面などの理由で稟議が下りなかった。通常ならそこであきらめるところですが、係長はあきらめきれず、市長に直談判した。提案の意義と彼の熱意が伝わったのでしょう、市長決済でcomuoonの導入が決まりました。私が驚いたのは、上司を飛び越えて市長へ直談判した係長の勇気や粘り強さ。そして、それを受け止め客観的な判断をした市長の懐の深さです。私の先入観を見事に打ち破ってくれました。
中石理事長 このエピソードの原点には、係長があきらめきれず、市長が耳を傾けずにはいられなかった、現場で発生したミスがありましたね。
瑶子女王殿下 窓口に婚姻届の用紙をもらいに来た市民に、間違って離婚届の用紙を渡してしまったというミスでしたね。聴こえにくくて意思の疎通が図れなかったのが原因です。そこで、同じミスをくり返さないため係長がcomuoonの導入を提案したのが始まりです。結婚する前に離婚届とは、笑えない話ですよね。
中石理事長 入間市では、市の施設の多くにcomuoonが設置されています。
瑶子女王殿下 市役所のすべての窓口以外に図書館にも設置され、お子さんから高齢の方まで広く活用されている様子を見て、心強く感じました。これまで、ほんの一部にだけcomuoonが置かれ、それもあまり活用されていない現場も見てきたので、入間市行政の認識の高さと実践力に感心しました。
中石理事長 創意工夫に驚かされた現場もありました。
瑶子女王殿下 理学療法士の方がcomuoonを車いすに設置して使えるよう、3Dプリンターで接続部品を自作されていたのには驚きました。comuoonをいかに活用するか。真剣に考えているからこそ浮かんだ、知恵と工夫です。こうした現場の思いや努力を、組織のトップの方はぜひ知って欲しい。
障害者福祉に長年携わってきて、多くの現場に、遠慮やあきらめ、偏った見方や先入観が漂っていると感じてきました。障がいがあっても運動や外出がしたい、買い物へ行きたいと思う人はたくさんいます。けれど多くの人は、遠慮やあきらめから望みを口にしない。そして、彼らの望みを叶えるにはどうすれば良いかと、工夫や挑戦を重ねる職員も多くはいません。日常のオペレーションを円滑に行うことは大事ですが、変化や向上への意識を忘れないで欲しいですね。
中石理事長 視察を通じて、そうした瑶子さまのジレンマは多少なりとも軽減されましたか。
瑶子女王殿下 中石さんと各地へ足を運び、「一緒にやってみよう」「どうすればできるだろう」と、現状の課題解決に向けて創意工夫を重ね、挑戦を続けられている方々との出会いが、私の財産になっています。鹿児島へは今回が2度目の訪問です。今回も素敵な出会いに恵まれ、思わず「来年も鹿児島に呼んでください」「私はまた鹿児島へ来たいです」という言葉につながりました。
中石理事長 「現場を見たい」という瑶子さまの希望を伺った当初、私的な視察へお連れする方法も知りませんでした。各方面に相談してどうにか実現。気がつけば、多くの視察をご一緒させていただいています。私は皆さんに、瑶子さまがどんな思いで現場に足を運ばれているのか、知ってほしい。現場での質問や感想、視線や表情などを通じて、私は毎回、瑶子さまの明確な意思を感じます。長年、障害者福祉に携わって来られたからこそ感じる、視点や問題意識をお持ちだと受け止めています。
comuoonがもたらす変化をイメージしないまま、単なる機器としての認識しかない現場では、導入してもやがて使われなくなっています。そこには理解力や想像力が不可欠です。実際にcomuoonを取り扱う最前線の方々にハートがなければ、世の中の認識や価値観は何も変わらないのです。

瑶子女王殿下は特別講演会後の「おことば」で、20代の頃から患われている低音型の感音性難聴についても、憶測や誤解が生じる余地が無いよう、ご自身の言葉で率直な気もちをしっかりと語られました。


瑶子女王殿下 私は、メディアに出演するのはあまり得意ではなく、シンポジウムなどで雄弁に相手の意見を論破するタイプでもありません。もちろん、障害者福祉やcomuoonの現地視察をする際に、伺った意見が事実と異なっている場合には、相手が男性であろうと女性であろうと、年上であろうと「それは違います」とはっきり申し上げます。それはすべて、経験に基づいた私の意見です。私の意見で相手の考えや現場の状況がそう簡単に変わるとは思っていませんが、たとえ1mmでも何かが変わる可能性があるのなら、私は積極的に発言し、行動し続けようと思っています。
中石理事長 そうしたお考えの根底には、寬仁親王殿下の影響がおありなのでしょうね。
瑶子女王殿下 父は「100%の健常者はいないし、100%の障がい者もいない」と、よく言っていました。何をもって健常者、障がい者とするのか。障害者手帳の有無によって判断し、持っていなければ健常者という見方も、私は偏見だと感じます。
私は「瑶子、おまえは勉強が苦手で嫌いだろう?それも障がいの一つだ。そう考えれば、足が無いとか、手が無いとか、それが一体なんだ!」と言う父のもとで育ちました。物心がつく頃から、小人症の方や小児麻痺の方、視覚や聴覚が不自由な方など、さまざまな方が私のまわりにはいらっしゃいました。幼い私が無邪気に「何で足が無いの?」と尋ねると、相手の方も「ちょっと車に忘れて来ちゃってね」と気軽に返されるほど、対等で公平な関係性の中で多くの方々と触れ合ってきたのです。
中石理事長 まさに、多様な交流を積み重ねて来られたのですね。
瑶子女王殿下 世の中で障がい者とみなされている人を、私はそもそも障がい者とは思っていません。足が無いAさん、視覚が不自由なBさんと認識しているだけで、障がい者と健常者を分けては考えられないのです。傷病に起因する障がいがある方が、車いすや白杖などのサポートを必要とするのは現実です。だからと言って「助けて〝あげる〟」という傲慢な考え方や、サポートが必要な方が「手助けしてもらうのは当然」と考えることに、私は共感できません。そこにはただ、互いに助け、助けられる関係があるに過ぎないと思っているからです。
例えば、手が不自由で足を使って絵を描かれる方がいますが、私には到底同じことはできません。健常者だから何でもできて、障がい者だから何もできないわけではない。たとえ訓練を重ねて多少なりとも絵が描けるようになっても、私にはその方のような絵は描けません。なぜならそれは才能だからです。健常者、障がい者に関係なく、人にはその人だけの才能があります。
中石理事長 とても公平な視点ですね。
瑶子女王殿下 例えば、私は子どもの頃から、ハンセン病の療養施設にも訪問してきました。もちろん、私には社会と隔絶されて暮らした経験はないので、そこで生きてこられた方々の心に本当の意味で添うことは難しいと思います。だからと言って、私はその方々との触れ合いに臆することはありませんし、折々の状況やお気持ちを率直にお尋ねしながら触れ合ってまいりました。
健常者と言われる人にも、高血圧や痛風、腰痛などいろいろな傷病名がつき、できること、できないことがあります。「100%の健常者はいないし、100%の障がい者もいない」という父の言葉は、そういうことを示していると私は理解して生きてきました。ですから、健常者と障がい者を分けてとらえることのない世の中に、なっていけば良いなと思っています。
中石理事長 何気なくとらえているものの見方や考え方に、偏見や差別の種があるという警鐘ですね。
瑶子女王殿下 人は、口ではいくらでも雄弁に語りますが、それを行動で示せる人は少ないです。発信力の大きな人の発言に多くの人が理解を示し賛同しても、それを現実化するために国や行政が一体となる面には、まだ課題があると感じています。
私も同じですが、何事も一歩踏み出すのは難しい。全体を俯瞰して理解できる人がいれば、まったく理解できない人もいます。お互いを理解し合える機会が少しでも増えることで、生きづらさが無くなっていけばと思います。人との違いがもっとも偏見や差別につながりやすいのが、障害者福祉の分野だと感じてきたので、私はそうではない世の中になることを望んでいます。もちろん、人にはさまざまな意見があるので個々の意見や見解は尊重しますが、間違った認識を改める努力を怠り、理解しようとしない偏った見方に対しては、私は今後も正直な気もちを示し続けようと思っています。

「聴こえ(聴覚)」の重要性への認識を、世の中に広く、深く、伝えることを目的として発足した、NPO法人・日本ユニバーサル・サウンドデザイン協会。今後はさらに活動内容を充実させ、名誉総裁である瑶子女王殿下とともに「聴こえることの素晴らしさ」を多くの方に実感してもらえる取り組みを加速したいと、中石理事長は語ります。その過程で、多くの人々が瑶子女王殿下のお人柄に触れる機会も増えていくでしょう。


中石理事長 視察を通じて瑶子さまは現状を把握され、「聴こえ」の重要性を的確に理解・認識されています。また、課題解決に向けた対策の必要性も十分に理解していただいています。「ヒアリングフレイル」という言葉の通り、現状の課題は、多くの人が自分の聴こえにくさに気づいていないという点です。ご本人もまわりも気づいていない、あるいは、気づいていても何の対策も取っていません。
そこで私たちNPOは、ご自身やご家族の「聴こえ」の実態に気づき、対策の必要性を実感してもらうきっかけとして、「ヒアリングフレイルサポーター養成講座」や「mimifes」といった音や聴こえに関するイベントを開催し、「音の伝わる仕組み」や「聴こえ」に関する理解を深めています。
2011年の設立以来、NPOでは、聴こえにくさに悩む方々が少しでも聴こえやすい環境を用意したいと考え、聴覚支援システムcomuoonを通じて、『きこえのあしながさんプロジェクト』や『ヒアリングハラスメントゼロプロジェクト』などの活動を進めてきました。
瑶子さまが名誉総裁に就任してくださったことで、私たちの思いや活動が社会で広く認知され、「聴こえ」に関する理解が深まり、現実的な対策が進んでいくことを願っています。コロナ禍でマスクをすることが常態化した中、瑶子さまご自身の感音性難聴という経験を踏まえたお言葉には、実感に基づいた思いや熱意がこめられていると、私は感じています。
瑶子女王殿下 私的な視察に同行させていただく中で、中石さんには、私の素の性格もずいぶん知られてしまいましたね(笑)。
中石理事長 はい。視察を通じて、瑶子さまのお人柄に触れる機会が数多くありました。こんなエピソードがあります。
九州のある県に、中学生の頃にギランバレー症候群と多発性硬化症を発症し、四肢麻痺や視覚障害、聴覚障害などのため、目がよく見えず、音も聴き取れず、右手の一部しか動かせないながらも、教員をめざして採用試験に臨もうとしている女性がいました。彼女は問題や解答用紙の文字がよく見えません。そこで事前に「明朝体の書体は見えないので、ゴシック体にして欲しい」と合理的配慮を依頼しました。ところが試験当日、配られた用紙の書体は明朝体のまま。文字が見えずに臨んだ試験は得点に結びつかず、彼女は不合格になりました。
すぐに彼女のお母さんから「事前に伝えていたのに何の配慮も無かった。これでは本人がいくら頑張っても挑戦さえできません」と、涙ながらの報告がありました。それを聞いて憤りを感じた私は、彼女の挑戦をご存知だった瑶子さまに状況を報告。すると即座に「私が〇〇県に文句を言いに行く!」と、今にも飛び出しそうな勢いでおっしゃられたのです。もちろんお止めしましたが、「問題の文章をコピー&ペーストして、書体変更をクリックすれば簡単に済むことでしょう!なぜ〇〇県はそんな配慮もできないの!しないの!」と珍しく声を荒げられました。正直にお気持ちを表される瑶子さまの姿に(すごい方だな)と感じ入るとともに、九州出身者である私は、若者の挑戦を真剣に受け止めようとしない大人たちが情けなかった。
実はその時、すでに〇〇県への私的な視察が数か月後に予定されていました。私はすぐ県へ出向き「こんな情けなくて恥ずかしい対応は、もうやめましょうよ」と訴えました。目が見えないから忖度しろ、と言っているわけではないのです。公平な環境さえあれば十分に実力を発揮できるから、公平な環境を整える配慮をして欲しいと、NPOとして申し出ただけです。書体を変えたからと言って、他の受験者に不利益は生じません。「全国47都道県の中で、瑶子さまが怒りを示されたのは〇〇県だけです。私は九州出身者として恥ずかしい」、「視察の際はこの件への対応を、きちんと瑶子さまに報告してください」と訴え、結果的に合理的配慮の約束を取り付けました。翌年の採用試験で、彼女はなんと全国トップの成績で合格し、現在は県内の特別支援学校で教員をしています。
瑶子女王殿下 私は7年間、民間組織で働いた経験があるので、明朝体をゴシック体に書体変更するのが事務的に簡単なことくらい知っています。なのに、なぜそれをしないのか。できないのではなく、しないことに腹が立ちました。合意的配慮に対して真剣に考えない、怠慢でしかありません。
中石理事長 たった一人の、未来へ向かって挑戦しようとする若者のことを真剣にとらえ、全力で応援し、関わろうとする瑶子さまのお人柄に、私は感動し、頭が下がる思いでした。寬仁親王殿下の思いを引き継がれ、障害者福祉に本気で取り組んで来られた瑶子さまのお姿に触れて、とても心強かった。後日、視察時に瑶子さまとの対面を果たした彼女とご家族の感謝と感激は、言葉にできないほどでした。
瑶子女王殿下 全国トップで合格するほど優秀な彼女の夢が、実現できて本当に良かったですよね。
中石理事長 難聴の生徒さんがいる学校を視察された際のエピソードもあります。校長や教頭、県のお偉いさん方がずらりと並び、瑶子さまを出迎え案内されました。すると瑶子さまは難聴の生徒さんに近づいて、「何か困ったことがあったら、ここにいるおじちゃんたちに何でも言うんだよ。すぐに力になってくれるから」と涼しい顔で言われました。そもそも言えない、声を上げられない環境が問題なのです。そんな状況に対して、瑶子さまはサラリと、ユーモアを介した言葉で大人たちをハッとさせてくださるのです。
私も日頃から子どもたちに、「遠慮しちゃだめだよ。遠慮せず、これができないけど、こうしたらできるから協力して、と言うことが大事」、「遠慮してできないのは本当の実力じゃないから、きちんと言って実力を発揮して」と伝えているので、瑶子さまが同じ思いでいらっしゃったことが嬉しかったし、それをサラリと言葉にされたことに「すごい!」と感服しました。
瑶子女王殿下 あの時は皆さん、あわてていらっしゃいましたね~(笑)。
中石理事長 こうした数々のエピソードや、今日皆さんに向けてかけられたおことばを通じて、瑶子さまのお人柄が多くの人に伝わればと思います。このようなお人柄の方が皇族でいらっしゃることに、私は国民として誇りを感じます。まだ瑶子さまとお会いしていなかった8年前は、皇族の方のお気持ちに触れる機会などもちろん無かったし、これほど一般人の視点や感覚に立って考えてくださる方が皇族の中にいらっしゃるなど、想像もしていませんでした。当初は「私の隣にどうぞ」と席を勧められても「いえ、そんな……」と恐縮していたほど、皇族の方とは遠い存在でしたから。
だからこそ、瑶子さまが各地へ足を運ばれる際には、1人でも多くの方に瑶子さまのお人柄に触れていただきたいと願っています。真剣に障害者福祉について取り組まれている皇族の方がいらっしゃることを、皆さんに知ってほしいのです。
瑶子女王殿下 私的な視察でよく感じるのは、私はあくまでも中石さんに同行させてもらっている立場なのに「瑶子女王殿下はこちらへ」と、いつも上座を勧められる居心地の悪さです(笑)。また、私が伺うからと、今までcomuoonにまったく関わっていない組織の上席の方々が、その時だけ率先して出て来られることにも疑問を感じます。私は実際にcomuoonを使っている現場の様子を知りたいし、現場の方々の声を聞きに伺っているのに、と。
あの時は、生徒さんの声を引き出すことで、私は大人に「聞いたでしょ?これがこの子の悩みであり、望みなんですよ」と示したかった。また、私はその後の対応もきちんとこの目で確かめたいと思っています。「来年もここに来ます」とか「(生徒に対して)また会いに来るね」と口にするのは、リップサービスではなく、確実に現場の課題を解決して欲しいから。私が現場に行くということは、そういうことなのです。
中石理事長 そう言えば、病院へのiPad導入でも、おもしろいやり取りがありました。
瑶子女王殿下 そうでしたね。ある病院で私が現場の方に「何か欲しいものなどはありませんか?」と尋ねると「iPadがあると助かります」と言われました。私の隣に理事長と院長がいらっしゃったので「iPadが欲しいそうですよ」と言うと、すぐに導入するという答えでした。
数カ月後、その病院へ再び伺ったけれど、現場にはiPadがありませんでした。「あの時、導入されると言われていましたが、どうして無いのですか?」と理事長に聞くと、しどろもどろの返答で(笑)。そこで「iPadがどんな風に活用されているか拝見したくて伺ったのですが、残念です……」と、私は言いました。すると数カ月後に病院を訪れた時は、iPadがある状況になっていましたね(笑)。
その場限りの約束はいらないのです。現場の声を実際に聞き、資金が無いわけでもないのに約束を守らないのは残念です。私の思いはシンプルで、子どもたちや若い世代に対して、恥ずかしくない大人でありたい。自分の利益や目先のことにとらわれず、未来につながる判断や行動をするのが、大人の役割だと思っているだけです。

コロナ禍で中断していたイベントや企画も、ようやく再開し始めました。全世界が直面した未曽有の感染症は、あらゆる価値観の変化や行動変容を生みました。瑶子女王殿下もまた、心中に去来する思いが、さまざまにおありのようです。


中石理事長 今回こうして無事に視察が実現できて、ホッとしています。
瑶子女王殿下 COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の影響で中断していた公務も、少しずつ再開されていますが、マスクをしての公務にはいまだに慣れません。また、私が現地へ伺う意味や果たすべき役割について考えることも増えました。1つのことを続けるのは容易ではなく、信念を曲げずにいるのも同じです。さまざまな意見がある中、自分の思いを示し、伝え、同じ信念を持つ仲間とつながっていくのは、簡単なことではありません。
「さぁ行くぞ!みんなついて来い!」という豪快さで自由に行動した父のように、フットワーク軽く活動できていない現状にジレンマを感じています。ずっと「女性皇族だから」という、見えないブレーキのようなものを感じながら生きてきました。特に、COVID-19下のこの2年半は、何が正解なのかわからないと感じたことも少なくありません。同じ行動を、あの人はやっていて、この人はやっていない。国会議員の方なら良くて、私たち皇族はすべきではない。そんな判断基準があやふやな中で、私自身の存在意義とは何か?考えさせられました。
長年続けてきたこともCOVID-19を理由に依頼が次々に取り下げられ、それを受け入れるしかない状況でした。それぞれの活動や行事をどうとらえているのか、続ける意思はあるのか、依頼者の意思や熱意を確認する機会も増えました。祖父や父の代から続けていたことも、中断によってその意義や素晴らしさ、運営のポイントに至るまで、後へつながりにくくなるからです。
中石理事長 やむを得ない判断とはいえ、中断や中止によって新たな課題も生じていますね。学生も長期間にわたるリモート授業などで生活が一変し、メンタル面の問題を抱えている人が増えたと聞きます。
瑶子女王殿下 マスクも最近やっと一定の条件下で装着が緩和されるようになっていますが、難聴の私にとって相手の口元が見えないのはストレスです。また依然として、社会全体に目に見えない閉塞感があります。私も自由に活動していた3年前と同じモチベーションには戻っていません。父譲りの思いきりの良さがある一方で、石橋を叩き過ぎて叩き割ってしまうような慎重さも持ち合わせているので、自分の性格をふまえて少しずつ、精神的にも行動面でも、私なりのスタンスが定まっていけばと思っています。
今日このホテルに到着した瞬間、3年前にお世話になった時のことを思い出し「懐かしい景色、帰ってきたなぁ」と感じました。良い想い出がある街をまた訪れると、私はいつも懐かしさを感じます。故郷ではないのに、故郷に帰ったような感覚になります。
中石理事長 それは鹿児島の皆さんにとって、何よりのお言葉ですね。
瑶子女王殿下 COVID-19の影響で元気を失った方々が、全国にたくさんいらっしゃると思います。だから私も、皆さんと一緒に元気を取り戻したい。まずは3年前と同じ程度のモチベーションに戻りたい。
私は、無責任な中傷で多少は傷ついたとしても、誰かが喜ぶのなら進んで取り組みたい人間です。SNSで自由な発信ができる世の中になり、皇族への見方も変わりました。そうした中で、もうすぐ39歳になる私が、経験をもとに為すべきことは何なのか。皇族らしからぬ発言や行動であっても、私はこれまでの人生で見聞きし、感じてきたことを、正直に、素直に表現したいと思っています。
私には、やりたいことがたくさんあります。私の経験を生かせる場が広がることを望んでいます。私的な活動は別にして、皇族は依頼が無ければ公務として動けません。私が役に立つことがあれば、どこへでも参ります。公務はもちろん、私的な活動でも、私が動くとたくさんの方の仕事が増えるので、そこは十分に考慮した上での判断になりますが、私はできる限り、直接皆さんと触れ合い、声を聞きたいと願っています。皆さんと、いつか、どこかでお目にかかれる日を、楽しみにしています。
中石理事長 瑶子さま、本日はいろいろなお話を聞かせてくださり、本当にありがとうございます。これからも一緒に、現場の声を聞きにまいりましょう。

取材日:令和4年10月7日
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